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歴史用語の訳語選択と翻訳者の主張

クララ・バートン
By D.B. King (CC)

翻訳という作業が、単にある言語から他の言語への機械的な置き換えではないことは、周知の事実だと思います。翻訳者は、数ある訳語の中から最適だと思われるものをひとつ選んで読者に伝えなければなりません。学術論文翻訳、特に人文 ・ 社会科学系の学術論文翻訳においては、その際の訳語の選択が時として翻訳者の学界、あるいは社会における思想や信念の表明になることも珍しくありません。私の専門は歴史学で、日本語の歴史資料を英訳したものを目にしたり、また、自分で英語論文を書く際に歴史用語の英訳について考えたりする機会が多いので、この分野から具体的な例を挙げてお話ししてみたいと思います。

古書
By Peter (CC)
まず、「 明治維新 」 という事件を考えてみます。1860年代から始まった、近代国家建設のための一連の政治・経済・社会の改革です。日本の歴史において最も有名な事件の一つですので、日本史を特に勉強したことがない人でも、名前くらいは聞いたことがあると思いますが、みなさんは、「 維新 」 という言葉からどんな印象を持つでしょうか。おそらく、「 古いものを改める 」 「 何か新しいことが始まる 」 といったところではないでしょうか。

ところが、「 明治維新 」 という言葉は、英語ではたいてい “Meiji Restoration” と翻訳されます。 “restoration” とは「 復旧 」 「 復古 」、つまり、古いものがよみがえるという意味で、日本語の 「 維新 」 の持つ語感とはかなりちがいます。これは、明治維新が、徳川幕府によって冷遇されていた天皇がそれ以前の政治的権力を取り戻すという名目のもとで実施されたため、過去の翻訳者や歴史家や研究者の多くが “restoration” という英訳が最適だと考えたからです。そこには、明治維新がフランス革命やアメリカ独立革命のような、古い制度を打ち壊した “revolution” とはちがって、伝統を維持しながら行われた、日本独特の後ろ向きの改革であった、というニュアンスも込められています。

しかし、明治維新を “revolution” と英訳する翻訳者や研究者もいます。最近の研究では、明治維新の大義名分は天皇制の「復活」だったのですが、その後実際に成立した政治や経済のシステム ( 中央集権国家と資本主義 ) は高度に近代化されたものであることが実証されつつあるからです。つまり、これらの翻訳者や研究者は、 “revolution” という英訳を使用することで、明治維新、ひいては近代日本の後進性を主張する過去の研究史に疑問を投げかけ、日本の経験と欧米の近代国家の経験との類似性を強調しようとしているのです。

記念碑
By CC Barr (CC)
もうひとつの例として、「 自衛隊 」 の翻訳を考えてみましょう。一般的な英訳は “Self-Defense Forces” です。「 自衛隊 」 からの直訳と見てよいでしょう。しかし、翻訳者や研究者によっては、 “military” 、つまり 「 軍隊 」 と英訳する場合も見られます。しかし、日本においては、( 少なくとも少し前までは ) 自衛隊は軍隊ではない、したがって、戦争放棄を謳った平和憲法とは矛盾しない、という政府による長年の見解がありました。ですから、自衛隊を面と向かって 「 軍隊 」 と呼ぶことは、はばかられてきました。また、国民の間でも、自衛隊は軍隊ではないのだから、戦争は行わないだろう、という妙な安心感が戦後を通じて存在しました。このような状況で、自衛隊をあえて “military” と翻訳することは、なし崩し的に肥大化し、世界でも有数の軍事力を持つまでになった自衛隊の現実を直視し、批判的に捉えるための視点を提供することになるのです。

以上の例から、日本語の歴史用語や事件を英語に翻訳する際の訳語の選択が、翻訳者や研究者の思想・信念と密接な関係にあることが分かっていただけたと思います。これから学術翻訳をしたり、英語で論文を書いたりされる方は、ご自分が翻訳しようとする用語や事件がどのような歴史的背景で、どのように翻訳されてきたかを把握した上で、何が最適な訳語か決定することおすすめします。


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